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足を一歩外へ踏み出すと、そこはギラギラ輝く太陽の下。
夏の暑さはピークを迎えつつあるこのごろ。
私や悠哉の生活は、前のように落ち着きを取り戻しつつあった。
会長や黒田さんがロスに向かった日からは、仕事始まりの朝の挨拶も穏やかなもの。
悠哉へ「おはようございます」
そして専務へ「おはようございます」
時々物足りなさを感じてしまうのは、それだけ黒田さんの印象が強かったからなのかもしれない。
今にも彼の元気な声が、聞こえてきそう。
そしてその隣で、ニッコリ微笑む会長の顔が必ず浮かんでくるのだった。
そんな朝を何度か送ったある日のこと。
「なんだか、本当に静かな生活に戻っちゃいましたね」
出勤してきた悠哉が社長室へ向かうその背中に、苦笑いしながら声をかけてみる。
一呼吸置いて。
「平和でなによりだ」
シレッと一言。
そう言う大きな背中を見つめながらも、黒田さんの言葉を思い出した。
『…本当は寂しがりやだったりするからさ』
あのときの黒田さんの優しい表情も目の前に浮かぶと、私はニッコリ笑わずにはいられなかった。
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