彼奴

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 随分、深く眠ってしまったようだ  隣に人の気配を感じて、眼を覚ました  見ずとも解る程、そいつに慣れ親しんだ覚えは毛頭無い筈なのに、直感的に解って仕舞った自分を憎んだ  そいつは僕と眼が合うと、さも愉しそうに口許に孤を描いて「おはよう」と、そう言った  その時自分が、どんな顔をしていたのか全く見当がつかないのは、近く暴言を吐こうと無防備に開いたその唇が、そいつによって塞がれたからだ  散々嫌悪感を抱いたそいつに、接吻を許したのはきっと寝惚けて居たからだと自分に言い聞かせる思考がとても憎らしい  兄様以外の奴にそうされるのは、生まれて初めてだった
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