彼奴

6/8
前へ
/20ページ
次へ
 ふと、我に帰る頃には月は高く此方を見下ろし、窓から反射した光がぼんやりと部屋を映し出す  制服の侭倒れ込んだ布団の其処は、自分の涙であろう其によって僅に濡れていた  あの時の事を思い出す  情景は継ぎ接ぎだが確かに覚えたその彼の、冷えた肌の感触を思い出し身体が僅に震えた  恐怖だろうか、悲しみだろうか  身体の震えは心をも震わせ、薄く皺の残る制服の衣擦れる音は静寂を劈いて、僕を余計に不安にさせるのだ  静かに涙を落とす僕の姿も心も、きっと誰の目にも触れられずに、そっと朽ちていくのだろう  意識はまた、月のもとに落とされた
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加