彼奴

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―――  朦朧とする意識の中、長い廊下の奥に位置する兄様の部屋から、苦痛に喘ぐ様な声が聞こえた。  兄様のもので無いのは声で直ぐに解った、愛しく想う相手の声を聴き違える等落ちぶれては居ないと思っている。  直後、兄様の声が聴こえた。  その声音は良く知っていた、兄様がいつも僕を満たしてくれるその時の声。  色気を含み、柔らかく空気を震わせるその声は、安堵と焦燥を同時に与える、自分に余裕が無くなっていくのが、はっきりと解る、そんな声だ。  兄様はその声で、喘ぐ何者かを気遣い、労る様に声を掛ける。  僕しか聴く事の無かった声だと、高を括って居たのかも知れない、そんな自分を酷く恨めしく思った。
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