彼奴

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 気付けば窓からは光が射し込み、つい先程迄薄暗く此方の視界を奪っていた闇を照らした  結局、一睡も出来なかったのだ  彼の声を聴いた時から、頭の中はその事にばかり囚われて眠る事は許されなかった  薄く靄のかかった思考で、学校があったことを思い出す  苛立ちでも恐怖でも無い形容し難いその感情は僕の身体をすっぽりと覆い隠して、途端に吐き気を催した  御不浄へ向かい其処で漏らしたのは嗚咽だけでは無く、もうこの家を出たであろう兄様の名前だった  泣きながら、嗚咽感と孤独と不安に身体を震わせて居ると、冷たく凍えた僕の身体を誰かの温い体温が包み込んだ
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