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始めの一番
鬼女の伝説が残るその橋に来たのは、真夜中の事であった。
昼間の噂を確かめる為、そう自分に言い聞かせて梵天丸は此処に来ていた。
まだ幼さが残る少年の目に異様な物が浮かんでいた。
こうこうと淡い朱鷺色を放つ巨大な桜
松明が無くても
はっきりとその存在がわかる。
まるで化け物
小山のような桜を少年は見上げていた。
ナニシテルノ?
好奇心一杯の声がする。
「花を見てる。」
アタシモミテイイ?
足元から、ふと声が上がり
下を向くと ………!
「我が目を疑うような光景が広がっておりましたよ。」
後年伊達政宗が、その奇妙な話を駿府で語ったのには、深刻な訳があった。その時期をいつ頃と定め様にも、なにぶん茶席の中での話なので、はっきりとした時期を定める事が出来ない。ただ、駿府にて肉人騒ぎがあった後とだけ定めて置こうと思う。時期が何故大事かと言うと、政宗がこの後の行動を起こしやすい様に、大久保が段取りするからだった。それが、使節団と微妙な関わりをも持って来るきっかけでもあった。
「大久保の屋敷にて、珍事が発生したとか?話を聞いてはおらんか?今は、二条城で豊臣秀頼との会見を控えている無用な騒ぎは何かと避けたいのだが?
なんとも物騒でいかんのだ……此度の事と繋げてしまう輩が出るのはいかにも都合が悪い、だんどりが余り善すぎるのも、豊臣に警戒されかねないのでな?」
駿府城にて奇怪な事が発生した。家康はそれを利用して良いものか?悩んでいる。戦国最後と言われる大戦が産まれようとしていた。
「先に勝鬨を揚げる愚か者がいてもかまいますまい……これはもはや決まり事のようなモノですから。邪魔だては無用と致しましょう。」
躊躇わず政宗が続けた言葉に。同席した僧が色を変えた。政宗は同席した僧が余計な事をするなと釘を刺している。加藤清正の粛清の企み等後の話だ。清正に要らぬ不信感を抱かさせては面倒この上無い!徳川の内部分裂等、さらけ出す必要も無い!政宗は金地院が大戦のきっかけを持って来るタイミングを探していた。ある男の失脚と同時に。
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