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「翠君…。」
すり、と男の背中に顔を擦らせた姿にイラつきが増したのを感じた、何故かなんて知るかイラつくもんはイラつくんだ
いっそのこと二人して殴ってやりてえ所だが微かに残った理性がそれを止めた
「…そいつどうしたんだ。」
「軽い退行症状だ、一時的なものだから数分もすれば治る。」
「幼児退行みたいなヤツか?何でそんなことに」
「御前にこれ以上話す理由はあるのか…?」
少しも表情を変えずに俺に冷たい目を向けた男
腸が煮えくり返えそうな程にムカついたし反論してやりたかったのに、一言もその言葉は出せなかった
実際に俺とオカマ野郎の関係なんて風に吹かれれば音もなく何処かに消えて行ってしまうような脆い関係だった
この男と違って俺はオカマ野郎のことは何も分からない
そっ
「ど、うしたの…?」
はっとすれば俺の頬に微かに震えた手が添えられて
涙で潤ったアメジストの瞳が心配そうに俺の事を見つめていた
いつのまに…
明らかにいつもの面影を無くしてしまっているオカマ野郎の俺に伸ばした手に何となく手を重ねてみた
長い睫毛が震える
「…泣きそうな顔してた。」
「………うるせえ。」
そんな顔を見られたのが情けなくて誤魔化そうと乱暴に撫でた髪は驚くほどに柔らかく気持ちが良かった
その際にぱちぱちと落ち着きなく瞬きを繰り返したオカマ野郎が面白くてついつい笑ってしまうと、俺の他に微かに笑い声が聞こえてきた気がした
いつもの女みたいな笑い声
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