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その日は梅雨の時期にしては珍しく、朝から快晴だった。
午前五時ぴったりに鳴り響いた目覚まし時計を力一杯叩いて、私はベッドから跳ね起きる。
小さくても立派な一軒家である自宅は、まだ微睡みに蕩けて静まり返っていたけれど、私まで蕩けてしまう訳にはいかない。
クローゼットの扉を乱暴に開けて、近所の中学校の校章がついたセーラー服に身を包む。
二年とちょっと着込んだそれはだいぶ綻んでいたけれど、あと一年もしないうちに卒業だったから大して気にも留めていなかった。
ふわりと紺色のスカートを翻して、まだ夜明けを迎えたばかりの時刻に、洗面所へと飛び込んでいく。
乱暴に顔を洗えば、鏡越しに見返すのは少しばかり目付きのきつい自分の顔。
肩下まで真っ直ぐ降りた黒髪は所々跳ねていたけれど、まだ見られたものだと妥協をつけて、早速朝一番の食事当番という仕事に取り掛かった。
その日は、兄さんが朝早くに会議の予定が入っている日だった。
二人分の朝食と、二つのお弁当を同時進行で進めていれば、程なくしてリビングに現れる兄さんの寝ぼけ面。
どちらともなく口をついて出るのは、もう何回言ったかも分からない、おはようの挨拶。
支度が整い次第、朝御飯を並べて一緒に食べるのは、兄さんが言い出した習慣だった。
殆ど家庭内別居に近い両親の、毎日喧嘩三昧の空気から逃げ出して、一回りも年の離れた兄さんの家にやってきたのはつい最近。
それでも、両親の元に残してしまった負い目からか、兄さんは私を迷惑がる事はなかった。
もともと、一人暮らしを始めてからもちょくちょく実家に顔を出しては、四六時中私を構い倒すくらいだ。
こっちに来てからは、寧ろどうしようもなく甘やかすものだから、私の方が呆れる始末。
生活にだらしのない兄さんの世話を自らかって出て、兄妹二人、それでも慎ましく暮らしていたとは思う。
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