終わった時間

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生活費は、子供にはまだ甘さを見せる両親の仕送りと、兄さんの仕事の給料で何とかなっていた。 自宅も、土地も、兄さんの功績で手にいれた所に私が後から転がり込んできたのだ。 スーツに着られていると言った方が早いくらい、まだまだひよっこ社会人の癖に、メディアに大きく取り立てあげられ、多くの人間から絶賛されたその功績。 高校卒業と同時に入社した会社で、かねてから夢見ていた仕事をまさかの形で成功させたその実力。 兄さんの仕事は、私も尊敬している。 面と向かってそう言った事はないけれど、妹に甘い兄が、私の為に一つの世界を作ったと嬉しそうに告げてきて、素直に有り難うと言えるくらいには。 兄さんは天才だった。 天才といっても多方面に優れている訳じゃなく、ただ一点に限って秀でていた。 システム開発者としての、他より飛び抜けた才能。 とあるゲーム会社の小さな開発部門で頭角を表し、新人の癖に初仕事を任された兄さんは、他に四人の親しい仲間と少数精鋭のチーム、それから数年という時間で、ゲーム業界を変える一本のゲームを作り上げた。 人付き合いが苦手で、友達らしい人も殆どいない私の為に、自由に駆け回れる世界を。 大掛かりな宣伝もベータテストもなく、ただ事前告知一つだけで済ませたそれは、当然の如く公表直後はそこまで騒がれなかった。 それでも。 たまたま目に留めた人が気紛れにログインした瞬間、その質に歓声をあげて。 人が人を呼んで、メディアに取り上げられた瞬間、爆発的に利用者数は増えて。 それに伴って、兄さんの給料も桁上がりとなり、忙しさは以前とは比較にならない。 だから、朝早い会議のために早起きして朝食やお弁当を用意してあげるくらいには、私は兄さんを尊敬していた。 朝食を食べ終わった兄さんに、鞄を手渡して玄関まで見送る。 "篠原"の漢字の上に"シノハラ"と振り仮名の振られたネームプレートが、スーツの胸元で曲がっていて。 それを指摘してやれば、スポーツ少年のような爽やかな長さに切り揃えた黒い短髪を、照れ臭そうに掻いて笑っていた。
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