Prologue 英雄の証

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一面に白世界が広がる極寒の地。 雪原を越えた荒々しい吹雪の山地を、人間5歳程度の身長と変わらない獣人族が二列で歩いている。 これは私が経験した厳寒地での調査記録である。 この時、どれだけ歩いていたのだろうか? 後ろを振り向けば、降りかかる雪で白く靄んで見えてしまうものの、視界の限界から続く肉球の足跡が長時間歩いた事を物語る。 空を見上げれば、工場から作られた煙のような薄灰色雲が空を覆う。 大気中で冷えた雨粒は氷の剣先状となり、私達の頬に刺さるように降る。 そして意地悪に私達を拒むような強風と深く積もった雪が進行速度を遅くさせる。 寒くて冷たい、先が見えない現実から逃げたくなり下を向く。 冷静に考える力などなく、ただただ仲間達の後ろ足をついていく。 仲間の声が強風の音に掻き消されつつも、悪天候の一時凌ぎに使えそうな場所を伝えた。 元気はないが、聞いている者に力を与える一言だった。 列の先頭を歩く仲間が洞窟のような場所を発見した。 洞窟はまるで自分達が求めていたように都合よく見つかった。 「……あの洞窟で休むニャ」 仲間は口数を減らして簡潔に皆へ伝える。 一言が伝わった仲間達の歩行速度が少し早くなる。 体力の限界を感じ、一秒でも早く休憩したいのは皆同じだった。 歩けば歩くほど辛くなる地面の雪。 水が混じったベチャベチャな質の雪とは違う、強風によって地面を滑る雪だけが層になっているため踏む度に力を入れにくく歩きにくい。 増してや腰を降ろすまで残り少しだと思えると逆に歩く事が辛くなる。 そしてやっとのことで私達は洞窟のような場所に入り、白い溜息を吐くと同時に重いポーチを地面に降ろした。 寒さを緩和するホットドリンクを飲んで一息をつく。 寒冷地を長時間歩いたので、ポーチの中身もすっかり冷えきってしまっている。 真まで冷えきってしまった懐炉など使い物にならなくなっていた。 ドリンクを飲みながら周りの仲間を見てみる。 手と手を擦って霜焼けを我慢したり、故郷の温かい写真を見ている者。 焚火の前で藁を敷いて横になる者。 疲労の癒し方はそれぞれであるが、疲れきった表情は誰もが同じだった。
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