Prologue 英雄の証

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私達が派遣された主な理由は、生態調査と未開地の開拓である。 目的はそれぞれだが、私は主に生態調査で派遣に加わっていた。 これは仕事でもあるが、生き物が好きな自分の趣味でもある。 仲間達が他愛のない世間話を楽しむ中、私は今いる洞窟のようなこの場所に興味をもつ。 耳を澄ませば暗闇に染まる奥道の方向から内側へ入り込む冷気の音が僅かに聴こえる。 それはまるで大型モンスターの咆哮や唸り声のようにも聴こえなくはないが、それは多分自分自身の疲労による錯覚。 奥から風の音が聴こえるという事は、ここは洞窟なのだろう。 次第に洞窟について興味を持つ。 洞窟の大きさは、まるで飛竜型モンスターが窮屈感を覚えず一頭出入りできる程度。 この洞窟の入り口には自分達以外の足跡などなく、生命の気配を感じられないこの地でどのようにして洞窟ができたのか知りたくなった。 心の中の気持ちが昂る私は洞窟の中をこっそりと単独で探ってみることにした。 洞窟の奥には生物の痕跡があるのかもしれない。 好きな物を見つけたら、自然と力が出てくるもの。 霜焼けで痒い皮膚や重いポーチによって負担をかけていた腰の痛みなど忘れていた。 松明に火をつけ、洞窟の内壁がはっきりと見える。 内壁は不規則な形をした岩が密集し、煉瓦のように重なっていた。 海岸で見かけるような丸みを帯びている石もあれば隕石のようなごつごつした石。 ハチの巣のように穴が開いており、気泡の跡が残ったような不気味な岩石。 外から入り込む風が岩の中心まで凍えさせ、これらの岩が冷気を放つ。 慎重に、少しずつ足元に気を付けながら洞窟の奥へ進んでいく。 焚火付近の仲間達の会話が次第に薄れていく。 僅かに聞こえていた風の音がはっきりと聴こえるようになった。 天井を見上げると、まるで鍾乳洞のように氷柱上の岩があちこちにある。 風が僅かながらも通り、その風が岩を長い年月を得て削っていく。 そのゴツゴツしさは私を威嚇する獣の牙と錯覚してしまう程。 奥に進むにつれて洞窟の内壁の色が変わっていく。 鮮やかではないが、薄暗い橙色をした岩の破片、鉄が混じった錆の臭いを放つ岩もあった。 私自身、探検するのは好きではあるが鉱石に関してはそこまで詳しくはない。 専門に聞けば分かると思うのだが、独断の判断でマグマが冷えて固まったものだと思った。
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