Prologue 英雄の証

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足と卵がぶつかった影響で転がって横たわってしまったが、どうやら傷などはつかなかったようだ。 松明を壁に掛けるように置き、しゃがんで竜卵を見つめてみる。 灰色の卵殻と艶が特徴的といえるが、このような色をした竜卵を見たことがない。 岩から放つ冷気がこの状況を怪しく包み込む。 新種のモンスターの卵だと期待すると同時に鳥肌が立つ。 生命の気配が感じないので敵が襲ってくる事はないのだが、竜卵から僅かな恐怖心を感じた。 ここに巣があるという事は、斜行のある小さな穴から出入りしていたのだろうか? 何故、こんな生物が育つのに適していない環境に卵があるのか疑問である。 生物には、あえて危険を承知で狙われにくいからという理由で厳しい環境で産む者もいるがこの寒冷地では考えられない。 次に、今ある竜卵の周りの状況を説明すると、卵は1つしかなくて複数生まれた痕跡はないようだ。 しかし竜卵の周りには黄土色の毛のような、草のような物があちこちに散らばっていた。 実際に触ってみると、どうやら体毛ではない。 この寒冷地ではまず見つからない、葉が細長い植物のものと思われる。 かなり時間が経っているのか、当然というべきか長い葉は水分を失い萎れてしまっている。 この卵は飛竜種に関するものだと分かった。 洞窟に入る風が衝撃を和らげる草を散らかしたようだ。 ついに謎の竜卵に優しく触れてみる。 当然であるが冷たい。 まるで金属に触れているように手の体温が奪われている感覚がする。 冷凍保存された食品のモンスターエッグを扱っているような、虚しい時間が過ぎる。 私は無意識に深く溜め息をした。 卵というものは外からの衝撃を抑えるだけでなく乾燥を抑える役割もある。 また、産みの親が体温で温めたりもするはずである。 これらの条件を守れていない卵に命が宿っているとは思えない。 おまけに卵が誕生してからの経過日数もわからない。 外見では劣化している個所は見当たらないが、この竜卵が孵化する可能性は0に近いと思われた。 だが、すぐに結果は得られなくても持ち帰る事はできる。 産まれなくても、中身を割ってしまえば何か特定できる手掛かりも少なからず存在する。 じっくり調べながら自分だけの世界に入り込み、生態調査をしてみたくなった。
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