Prologue 英雄の証

6/10
23人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
この卵がもし生まれたらどんな姿をした竜なのか気になって仕方がない。 もし私が持ち帰り温かい場所に安置すれば生まれることも……それは夢の見過ぎであった。 そのような事を妄想しながら自分の身長の半分くらいの卵を両手で持つ。 思った以上に重くて見た目通り艶があるため滑りやすく、落としやすい。 倒れないように壁に掛けている松明の光で地面が見えなくなるまで運び、そして卵を置いて松明を持って行く。 岩肌がゴツゴツしている地面で卵を落とすことは許されない根性との戦い。 時には凍りついた水溜まりを避けながら仲間達の休息場所へ運び戻るのだった。 焚火で体の芯へと温まってきたようで、戻ってきた頃には会話の頻度や笑顔が増えていた。 その場に大きな竜卵を抱えたまま、仲間の会話で掻き消されないように大きめの声で伝える。 竜卵を見つけた事を伝えると、皆は目を丸くしてその竜卵をじっと見つめた。 賑やかだった会話は沈黙となった。 洞窟の奥にあったと伝えながら、仲間が敷いていた布の上にそっと置く。 卵を見た瞬間、一人の仲間がこう言った。 「卵があるということは、この洞窟はモンスターの巣なのか?」と。 ここにいる空間が騒然とならないように、歩いた場所にはモンスターの気配は無かったと堂々とした顔つきで伝え、彼らを納得させた。 この竜卵は自分の研究の為に持ち帰る事も伝える。 周りの状況は次第に落ち着きを取り戻すが、リーダーは最悪な状況から逃れるため判断したのだろう。 仲間達と私達はこれをきっかけに洞窟を後にして歩き出す。 そして私達は数日かけて極寒の地から拠点へ帰還した。 手に入れた竜卵も無理な衝撃を与えず、無傷のまま故郷に持ち帰ることに成功した。 思い出すだけで冷気を感じる、厳しい環境での調査から数日が経った。 私は竜卵の調査に励もうとする日々を送っていた。 竜卵の扱いは大変であり、持ち帰るよりもっと苦労するのが神経を尖らせながら行う管理 である。 卵の丁寧な保管、保温の仕方だけではなく、自分が知らなかった分野にも触れた。 家畜の書物などで基本から学び、無知である自身の頭に叩き込んだ。 振り返れば、この時の姿は過去の自分が不真面目に見えてしまうほど集中して真面目に取り組んでいたと思う。 それ程までに竜卵の存在は、私の心を大きく動かさせた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!