Prologue 英雄の証

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新緑に快晴という豊かな天候と環境を拠点とし、集落を築いたこの場所で獣人族は静かに暮らしている。 今いる場所、ここは正確な名前はないが、分かりやすく遺跡平原と呼ばれている。 考古学者の間ではこの場所にある遺跡は、いつ作られたものなのか様々な意見が分かれている。 原型を留めていない遺跡の石材欠片が散らばっている人類の歴史ある地。 時が流れると、人工物であってもいつかは自然に帰っていく。 この光景は時間の流れを忘れ、自然の神秘を感じさせてくれる。 他にも、ここの薬草で作るお茶は風味が良く体に良いと評判である。 古代の人間たちもここで集落を築いた理由は、豊富な食料に水、天候に恵まれた場所だったからだろう。 ここで育つ薬草は、その他の環境で育った薬草とは違って葉の色や苦みが全く違う。 鮮度が違うので、植物にとっても生育に適した地と言える。 過去に存在していた人間も同じであるが、私たち獣人族は住みやすい環境を求めて集落をずらす習慣がある。 この地では、集落の家は藁で出来たものが多くあり、自然と一体で生きている。 私はあの遠征から帰還後、忙しい日々を送る。 持ち帰った卵を見つめ管理する時間だけではなく、仕事で生態調査による野生のモンスターが潜む場所に足を踏み入れることも多かった。 私には研究仲間がいる。 遠征には行ってないお土産話を求めて集落仲間が遊びに来てくれたり、時にはお互いが調査していない場所でのお土産話で盛り上がることが多い。 仲間も卵を気にしてよく見に来てくれる。 持ち帰った竜卵は、孵化する希望が一切見えなくとも肌触りのよい、温かくて良質な布の上に乗せて安置している。 それは、まだ生まれるわけがないという科学的に証明できる事実を認めたくない心があったからである。 卵を割らず、僅かな期待を込めて。 ……そう考えた数日後に、まさか本当に奇跡が起きるとは誰も思わなかった。 何も物騒な事が起こらない集落の私の家で事件が起きる。 竜卵の様子が少しおかしい。 いつでも視野に入る場所に置いているため、竜卵の様子は毎日欠かさず見ていたのだが、目では見えない発見があった。
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