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会場を後にした俺は、空を見上げた。
既に日が登り、星々も見えなくなった空に、独り浮かぶ月。
その月を見つめると、自然に笑みが浮かぶ。
「…結、俺は馬鹿だったよ。
君に早く会いたいばかりに、常に死に場所を求めていた。
だが、それは間違いだったようだ。
俺は、生きられる間、生きる。
君が見たかった物事を見、出来なかった事をしよう。
仁志達が何を成して行くのか、周防の未来を見届け、目を閉じる事にするよ。
そうして頑張らないと、来世で君に会えない気がするんだ」
「兄さん、空に向かって何をブツブツ言っているのですか?
そんな姿を桜華が見たら、変態オヤジだと引かれますよ?」
後方から比呂斗が情け容赦ない台詞を浴びせてきた。
「…ほう、実の兄弟にお前は、そう言うか?
俺が変態オヤジなら、お前は更に上をいくぞ。
何せ、“女子高生に振り回されて喜んでいる”んだからな?」
「…倍返し、ですか?」
「口で俺に勝とうなぞ、百万年早い」
笑顔で言ってやると、比呂斗は盛大に溜め息をつき、肩をすくめた。
「確かに。口では兄さんに叶いませんよ。
…会えたんですね、結に。様子で分かりますよ」
「ああ。幸せな一時だったよ。仁志達には感謝している」
笑顔で答えた俺の肩を、比呂斗は泣きそうな顔をして掴んできた。
「兄さん、生きてくれるんですね?
今、結に誓った事は、違えませんね?」
「ああ。違えない」
「仁志から伝言です。
“女の子が生まれたら、名前を付けてくれますか?”だそうです」
「それは、何時になるやらだな。
爺さんになるかも知れんぞ」
仁志、生きろと言うのだな?
ああ、生きてみせるさ。
結の代わりに、お前達を見守って生きるよ。
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