比呂樹の章

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「なあ、比呂斗、何時振りだろうな。 こんなにも清々しい気持ちで、青空の月を見上げられたのは」 「そうですね…」 結が世を去り、何時の間にか俺は青空に浮かぶ月を見上げる事が辛くなっていた。 その姿は孤独で霞んでいて、まるで、この手をすり抜けてしまった結が、そこに在るのだと思えたからだ。 「さてと、帰るか。何時までも寒空の下に居たら、風邪をひいてしまう。 白虎と玄武が風邪をひいて寝込んだ、なんてなったら、笑い者になるぞ?」 「…兄さんと話していると、仁志の気持ちが良く分かりますよ…」 微妙な顔でコメントをする比呂斗に、ついつい俺は笑ってしまった。 「まあ、良いじゃないか。おっ、そうだ。 来年の仁志と桜華の誕生日会、何をプレゼントする?」 「そうですね…それは道々、と言うか、兄さんの家に帰ってから話しませんか」 「何故、俺の家に?」 予想はつくが、敢えて振ってみた。 「朝飯の支度も片付けも、しなくて良いですから」 シレッとして言う、我が弟。 「まあな…」 今でこそ、夜叉だ御子の守護者だと呼ばれているが、元々、比呂斗はぐうたらなのだ。 「まあ、良い。コーヒーとトーストで良いな?」 パンを焼いて、コーヒーを淹れれば終りだ。 朝は出来る限り簡単に済ませたい。 「ハムエッグは付けてくれないのですか?」 そう言えば、コイツはチビの時から、ハムエッグが好物だったよな。 やれ、黄身は半熟じゃなきゃ嫌だとか、卵とハムは2個で焼いてくれなきゃ、パンに乗せて食えないだとか… 「ガキか、お前は。食いたきゃ自分で作れっ」 「クスクス、私が作ってあげるわよ」 オヤジ達の大人気ない口論(?)に、比呂弥が可笑しそうに笑い、口を挟んできた。 「比呂斗はトーストの時にはハムエッグ、食べたがるものね」
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