比呂樹の章

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…その光の中で、俺は、見た。 懐かしい、あの頃の風景を… ―トン― 誰かが、俺の肩に手を触れた。 誰だ?背後から不意に俺に触れるなど、容易ではない筈なのだが。 「誰だ?」 問いかけ振り返った、その先に、昔よりも少し大人の結が居た… 「結?」 呼びかけると、笑顔を見せてくれる。 「会いたかったよ…」 夢でも幻でも良い、触れてみたい。 あの時、初めて君を抱き締めた様に。 「結」 抱き締めると、確かな感触と温もり、そして、今も忘れはしない、あの時と同じ芳しき香り… 『何時も子供達を護ってくれて、ありがとう』 「良いんだ。仁志は君に良く似た、優しい良い子だよ。 あの子の側に居られ、共に戦える日々は、俺にとって愛おしいものだ。 あの子の為にならば、何時、倒れようとも悔いはない」 『駄目よ。貴方も、幸せになって』 腕の中から結が顔を上げ、見つめて来た。 漆黒の瞳が、真っ直ぐに俺を。 「結?見えているのか?」 『ええ、見えているわ』 父親の最期の愛情表現とは言え、盲目である結の姿が何時も不憫でならなかった。 だが、こうして不思議な再会を果たした今、彼女の目は真っ直ぐに俺を見つめてくれている事が、嬉しい。 『比呂樹さん、貴方も幸せになって。 誠兄さんと比呂弥の様に…』 「君が居ないのにかい?」 俺の言葉に、結は哀しそうな顔になり口をつぐんでしまった。 「俺は、君を愛している。今までも、これからも。 来世では、共に手を携え生きる伴侶として会おう。 その時には、決して君を離しはしない」 柔らかな頬に触れ思いを伝えると、結は漆黒の瞳を涙で滲ませ、微笑ってくれた。image=478525438.jpg
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