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しず、と呼ばれた少女はひたすら桐を睨んでおり、対する桐は、怖い怖い、と言って笑うばかりだ。 そうして桐は庭に出て行って、雪が降らないかと言いながら空を見上げた。 全くもう、と諦めに似た言葉を吐いたしずを見て虎吉が笑えば、今度は鋭い視線が此方を向いた。 相手は少女であるのに、この視線には弱い。 「桐様は昔からあの様な御様子で?」 「ええ。少なくとも、私が初めてお会いした頃からずっとです。身体が弱くて床に伏せる事が多いのに、行動力だけは人一倍なのですから。桐様のお転婆には手を焼かされます」 「しず殿が側にいたから、だから安心していらっしゃるのでは?」 「実に迷惑な話です」 確かに、桐が病気で倒れれば、その度に看病するのはこの少女だ。 桐の世話役としてこの屋敷にいる彼女ではあるが、二人の関係は主従と言うより、姉妹と言った方が相応しい。 「しず、猫がいましたよ!追い掛けましょうよ」 「桐様!走ったらまた咳が止まらなくなりますよ!」 「猫なら私が捕まえますから!桐様はしず殿と此方でお待ち下さい!」 身体が弱いと言う割には足が速すぎないだろうか。 猫を追い掛けて行ってしまった桐を追って、彼女の方が猫みたいだと虎吉は思った。
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