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「桐様は産まれた時には既に歯が生え並んでいたし、目も見えていたそうだ。産まれて一週間で寝返り、一ヶ月で起き上がって、半年も経たない内に立って歩いて、更には言葉を話していたと」 「産まれてすぐに、か?」 「そう。その為にあの方は“鬼子”と呼ばれ、不吉だと言われて育った。しかし、殺してしまえば、自身に不幸が降り掛かるかも知れない。だから、人はあの方を恐れて、あの様な奥の部屋に追い遣ったんだ」 馬鹿馬鹿しい、と言って鼻で笑ってやりたかったが、蘭の目が真剣だったから、今の話が嘘だとは思えなかった。 「実はな、虎の前にも何人か護衛に連れて来られたんだ」 「そう、なのか?」 「ああ。お前で5人目だ。だが、全員すぐに逃げ出した」 「何故?」 「さあ。噂では、あの方に喰われたとか」 何を馬鹿な、と今度こそ鼻で笑ってやった。 蘭も冗談で言った様で、そうだよな、と言って表情を和ませた。 喰われたなどと、その様な事があるはずがない。
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