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そう言えば、先日立ち聞きしてしまった時に彼らが自分を見て言っていた。 新しく護衛に迎えられた、と。 新しく、という事はつまり、以前にも護衛の者がいたという事だったのだろう。 「“鬼子”ねぇ…」 「だから、この屋敷にいる者でも、桐様に直接会った者は少ない。常に側にいる者はしずしかいないし、後は殿様と光則様と私くらいだろうか。時々、医者が来るけれど」 「母君はいらっしゃらないのか」 「母君は桐様が産まれたと同時に亡くなられている」 淡々とした口調で放たれた言葉に虎吉は思わず蘭を見た。 隣で彼は無表情を貫いていたが、その目は少し悲しそうであった。 産まれてすぐに母君と死別したのなら、彼女は幼い頃から殆ど一人きりで過ごして来たのだろう。 兄弟がいるとは言え、あの様な奥の部屋に追い遣られたのでは、側にいる人はいなかったに違いない。 だから、時々感じるのか。 彼女との、見えない距離感を。
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