15/20

33人が本棚に入れています
本棚に追加
/497ページ
蘭と別れて、虎吉は猫を抱えたまま真っ直ぐ桐の元に向かった。 どうやら猫に懐かれた様で、ごろごろと喉を鳴らして擦り寄って来る。 今は袖の中に入れてあるが、相変わらず鳴き声が聞こえていた。 部屋まで行くと、丁度桐が出て来た所で、縁側に立つ虎吉を見上げて微笑んだ。 今日は珍しく、明るい色合いの着物を着ていた。 「おはよう御座います、虎吉様」 「おはよう御座います、桐様。今朝は叱られなかった様ですね」 「あまり怒らせると、しずったら拗ねて口も聞いてくれないのですもの」 「拗ねているのではありません。怒っているのです」 後から出て来たしずはいつもの仏頂面を更に濃くしていた。 笑っていればより可愛らしいだろうに、とは思ったが、此方の方が彼女らしくもある。 相変わらず仲の良い二人だと虎吉は笑い、静かに口喧嘩をする二人を眺めた。 世間話の様な口調で言い争うものだから、喧嘩しているのか否か、分かったものではない。
/497ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加