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桐は膝を付いて、下から覗き込む様にして虎吉の顔を見つめた。
縮まった距離に息を詰まらせたが、柔らかい笑顔につられて彼も笑った。
「どうぞ宜しくお願い致します」
二人で目を合わせて、それからくすくすと笑った。
腕の中で猫が、にゃあ、と鳴いて、喉を鳴らしていた。
その時、桐様、と声がして、部屋に戻ったはずのしずが開いた襖の隙間から顔を覗かせていた。
仏頂面な彼女の手には紐と鈴があって、それらを構えて立つ姿はこれから戦に向かう兵そのものである。
どうやら、猫に付ける鈴を探しに戻った様で、駄目だと言っていた割には一番乗り気だったのは彼女らしい。
虎吉と桐は互いに顔を見合わせて、小さく吹き出した。
寒い冬の朝、今日も平和だと猫が喉を鳴らした。
改めて、貴女に忠誠を誓おうではないか。
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