椿

3/26

33人が本棚に入れています
本棚に追加
/497ページ
虎吉様、と声を掛けられて、彼は伏せていた目を上げて振り向いた。 そこに湯飲みを乗せた盆を持ったしずがいて、彼女は目を瞬かせながら彼を見下ろしていた。 「どうなさいました?虎吉様」 「え?あ…いえ、少し、考え事をしておりまして…」 縁側に腰掛けて、転た寝していたのは秘密だ。 最近疲れているのか、ぼんやりしていると、思わず微睡んでいる時がある。 曖昧に笑った虎吉にしずは、そうですか、と答えて、持っている盆を少し上げて見せた。 「お茶を入れましたので、宜しければどうぞ」 「嗚呼、有難う御座います」 いつもの仏頂面に戻った彼女に苦笑いして、虎吉は立ち上がった。 大粒の雪が降り注いで、縁側まで雪で埋もれ始めていた。
/497ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加