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虎吉様、と声を掛けられて、彼は伏せていた目を上げて振り向いた。
そこに湯飲みを乗せた盆を持ったしずがいて、彼女は目を瞬かせながら彼を見下ろしていた。
「どうなさいました?虎吉様」
「え?あ…いえ、少し、考え事をしておりまして…」
縁側に腰掛けて、転た寝していたのは秘密だ。
最近疲れているのか、ぼんやりしていると、思わず微睡んでいる時がある。
曖昧に笑った虎吉にしずは、そうですか、と答えて、持っている盆を少し上げて見せた。
「お茶を入れましたので、宜しければどうぞ」
「嗚呼、有難う御座います」
いつもの仏頂面に戻った彼女に苦笑いして、虎吉は立ち上がった。
大粒の雪が降り注いで、縁側まで雪で埋もれ始めていた。
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