椿

6/26

33人が本棚に入れています
本棚に追加
/497ページ
「しず殿は凄いですね。本当に茶屋の生まれだとは思えない」 「昔からです。私がどこに隠れても、すぐ見付けてしまうのですよ?隠れんぼになりません」 「本当に仲が良いのですね、御二人は」 「何をするにしても、常に一緒でしたから」 だからか。 二人はいつも見えない何かで繋がっている様に思えたのだ。 人はそれを絆と呼ぶのだろう。 御饅頭を食べましょう、と微笑んだ桐に虎吉も笑みで応えた。 嬉しそうに饅頭を頬張る彼女は年相応の可愛らしい顔をしていて、それを見て頬が緩んだ。 彼女はまだ14歳だ。 もう14歳だ、とも言えるが、14年間の殆どをこの屋敷の中で過ごしている彼女は世間を知らない。 大人へと変わり始める年頃ではあるが、中身はまだ子供。 まだ14歳だ、と言った方が彼女には合う。 しかし、外の世界を知れば、この少女はどの様に変わる事だろうか。失望し、この笑顔が消えてしまうかも知れない。 もしそうなるのならば、彼女には穢い世界を知る事なく、世界は綺麗なのだと思わせておきたい。 この方には純粋なままでいて欲しい。 最近、強くそう思っていた。
/497ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加