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赤い花びらが側を通り抜けた。
虎吉が振り返ると、花びらの正体が分かった。
柔らかく微笑む桐の姿。
彼女の黒い髪の毛先から赤い花びらに変わり始め、そして、それは彼女の身体を蝕む様に散って行く。
「桐さ…っ!」
何か言葉を紡ごうとした唇が散り去り、左目が消え、右目が細められた。
消えてしまう。
彼が咄嗟に手を伸ばすと、顔があったはずの部分に空洞が生まれた。赤い花びらが踊る様に舞い散って、彼の顔に触れた。
開いた拳の上には一枚の花びらが残っていただけで、後は何もなかった。
気付けば、周りは闇だった。
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