椿

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出来るだけ詳しく、ゆっくりと最初から話した。 とは言え、どこからが最初なのかは定かではないのだが。 最初は闇の中にいた。 雪が降り出し、振り返ると女がいたのだが、しずに声を掛けられて、気付いたら縁側に腰掛けていた。 その後、桐とお茶を飲みながら他愛もない話をしていて、その時に何故か突然襖が開き、冷たい風が入り込んで来た。 そして、襖を閉めようと立ち上がって、何気無しに中庭の方を見ると、そこに一人の女がいた。 その女は先に述べた女と同一人物だった。 それからまた気付けば、自分はここにいた、とそう話した。 桐は妙に色のない顔で虎吉を見つめていた。完全な無に近い表情だ。 「どの様な方でした?」 「ええと、確か…髪が黒くて、肌が白くて、唇は真っ赤で…後、着物を着ておりました。白地に赤い花が描かれていて…あれは、椿、だった様な…」 もしかして、と桐の唇が動いた。 「この様な?」 ふわりと柔らかく笑みが浮かぶ。 真っ赤な唇が弧を描いて、白い肌の上でそれはとても奇妙なものだった。 そこにいたのは桐なのに、何故かいなくなっていた。 代わりにいたのは、例の、女。
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