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虎吉は息を呑んだ。
女に見惚れたのではない。そこには驚愕しかなかった。
何だ。これは夢なのか。
自分は眠ったままで、眠っている自分がまた夢を見ているだけなのか。
夢の夢、という言葉がある。
夢の中にいる自分が見た夢の事だ。
今の自分はその状態か。
女は何も言わず、笑顔を変える事もなく、細く長い指でどこかを指した。
その後を辿れば、指の先はある一点に向いていた。
彼処に、何があるのだろう。
虎吉が目を女に向けると、彼女はゆっくりと瞬きをした。
濡れた睫毛が震える様は美しいとさえ思った。
そして、突然女は花びらとなって散った。赤い花びらだ。
突風に煽られたかの様に、それは視界を奪った。
《――――…わたしをみつけて》
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