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「夢、ですか?」
桐は押入れから箱を取り出しながら、首だけ振り返って虎吉を見上げた。
細い腕ではその様な大きな箱を持ち上げられないだろうに、どうして頑張ろうとするのだろうか。
虎吉は苦笑いを浮かべて、代わります、と言いながら隣から手を伸ばした。
持ってみると、やはり重たかった。
「何が入っているのです?これ」
「人形です。先程しずと昔の事を話していて、何だか懐かしくなりまして。それで、夢を見たのですか?」
「え?嗚呼、そうです」
数瞬前の話なのに、しかも自分から言い出した話であるのに、何の話だったかすぐに思い出せなくて困った。
虎吉が畳の上に箱を下ろすと、桐は早速蓋を開けて中身を取り出し始めた。
切り揃えられた黒い髪に赤く色付いた唇。
その表情は微笑とは掛け離れているが、どこか可愛らしい少女の人形。
幼い頃は姉がよく遊んでいたと思い出して、虎吉は何となく複雑な気持ちでいた。
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