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人形を抱いたまま考え込む桐を見つめて、虎吉は黙って待った。
自分には分からない何かが、彼女には分かるのではないか。そう思っていた。
沈黙が続いて、一分が経った。
桐は突然立ち上がって、呆然とする虎吉にお構い無しに部屋から出て行った。
彼も慌てて立ち上がると後を付いて行って、自分が羽織っていた羽織を脱いで、彼女の肩にそれを掛けた。
桐は彼を見上げて、微笑みながら礼を言った。
「有難う御座います」
「いいえ。お風邪を召されて、床に伏せられては大変ですから」
「またしずに叱られますしね」
自覚があるなら、少しでもいいから行動を自重してくれたらいいのだが。
そう言いたくなったのを堪えて、虎吉は笑みを浮かべた。
桐は中庭の方に目を遣ると、じっとその目を凝らした。
「その方は他に何か仰ってましたか?」
「ええと…それ以外には何も話しませんでしたが、どこかを指差していて…嗚呼、あの辺りです」
指を向けた先は広い中庭のずっと奥だ。
彼処に何があるのかは知らない。
桐は知っているだろうか。そう思って、彼女を見た。
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