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桐は指差された場所をじっと見つめて、また突然草履を引っ掛けて中庭に下りて行った。
虎吉が気付いた時には黒い髪が軽やかに側を通り抜けていて、手を伸ばしても遅かった。
「桐様!雪が降っているのですよ!」
「虎吉様、虎吉様。彼方で宜しいのですね?」
何を言ってもこの少女は戻ろうとしないだろう。
虎吉は慌てて自分も中庭に下りて、その後を追った。
雪の粒は小さいが、夜中の内に積もっていた。もう2月も終わりであると言うのに、まだまだ春は遠い今日この頃だ。
先を行く桐は相変わらずながら足が速くて、どこが病弱なのだと言いたくなる。
彼女が元気だと言い張るだけで、本当は医師に走り回るなと忠告されているのだが。
「虎吉様!あれでは御座いませんか?」
桐に連れられて行った先で、彼は訳が分からず、口を開いてぽかんとしていた。
しかし、嗚呼、やはりそうだったかと納得もしていた。
中庭のずっと奥。
周りに隠されていて見えなくなっていた場所に咲いた花。
雪に埋もれて、椿が赤く咲き誇っていた。
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