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「二代征夷大将軍、徳川秀忠様は椿の花を深く愛しておいでだと聞きます」
突然、桐がその様な事を話し始めた。
虎吉は椿を見つめたまま、彼女の話に耳を傾けた。
「今、私が過ごしている部屋…彼処は元々私の母が私を身籠っていた時に父が宛がったものです。母は花が好きで、それでここには花が多いのだと兄上様から聞きました」
「御母上が、彼処に…」
蘭が言っていた。
彼女の母は彼女を産むと同時に亡くなられたと。
「母も椿の花をよく好んでいた様で…それを知った秀忠様がこの屋敷に椿の花を贈って下さったとか。…尤も、それは母が亡くなった後の事ですから、母がそれを喜んだかどうかは分からないのですけれど」
彼女は腕に抱いたままだった人形を抱き締めて、目を伏せた。
長い睫毛が頬に影を生み出して、白い雪がその上に落ちた。
その様子はあまりにも綺麗だった。
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