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しかし、あれだけの話で何故彼女はここだと思ったのか。
それを尋ねようと虎吉が彼女を見ると、それより先に口が開かれた。
「先に申し上げました通り、父は椿を嫌がっておいででした。ですから、この様な場所に植えられたのです」
周りからは見えない様に、奥に隠したのだ。
それは無駄な悪足掻きの様にも思えたが、それが最善だったのかも知れない。
不幸な花、椿。
それを堂々と植えるのは、見ている側の心地が好くない。
「椿はそれをずっと悲しんでいた。自分は愛でられる為に咲いているのに、周りから見付けられる事すらない。それなら、咲いている事に意味はあるのか。椿は誰かにこの想いを届けたかった。誰か、自分の声が届く者に。
それで、貴方の夢に現れたので御座いましょう。人の姿となり、見付けてくれと、願いを残して」
《わたしをみつけて》
《わたしはここに咲いているのです》
《ここにいるのです》
《どうか、どうか》
《わたしをみつけて》
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