椿

21/26
前へ
/497ページ
次へ
「それに、この花はもう先が長くない。元々、椿は長命なのですが、この様に日当たりの悪い場所にずっとありましたから、上手く成長出来なかったのでしょう」 「最後の力を振り絞って、という事ですか?」 「ええ。そして、貴方が気付いたのです」 赤い花は夢で見た通りだ。 あの女が椿であるなら、あの夢を見せたのも椿だろうか。 それに、椿の望みは本当にこれだけか。もっと、何か願っている事があるのではないか。 このまま枯らしてしまう事しか出来ないのか。 「椿は《みつけてもらう》事を願った。そして、私達がそれを叶えた。ならば、その願いに見合うだけの代償を頂かなくてはなりませんね」 桐はそう言って、唇を歪めた。 少女に似合わない怪しげな笑みだった。 彼女は抱いていた人形を虎吉に渡すと、自分の髪の毛を何本か手で切った。 長く、黒い髪を人形の一束だけ掬い上げた髪に縛り付けて、桐は人形の額に口付けた。 彼の手から人形を抱き上げると、彼女はそれを椿の根元に寝かせた。 そして、彼女が手を離すや否や、枝が伸びて来て、それを地面に引き摺り込んだ。
/497ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加