椿

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虎吉は絶句していた。 何が起きているのか、理解出来ない。 理解する事を脳が拒否していた。 「桐様…何なのです、これは」 「本人から話を聞いてみなければ、本当の願いは分かりませんし、それに、代償も頂かなくてはなりませんから」 「代償?」 「与えられたものには、それに見合うだけの代償が必要となります。与えすぎても、奪いすぎてもいけない。対等な代償を」 人形はもうどこにもなかった。 喰われたと言えばいいのか、しかし、地面に引き摺り込まれた形跡は消えていて、どうなったのか、全く分からない。 「人形は私からの贈り物です。あれは私が幼い頃遊んでいた、大切なもの。あの身体には私の魂の一部が宿っていると言ってもいい。そして、その魂がこの花を延命に至らせる」 桐は手を伸ばして、椿の花を撫でた。 そして、それが光に包まれ、やがて人の姿になった。
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