椿

24/26
前へ
/497ページ
次へ
その翌日の事だ。 奥にあった椿を縁側から眺められる位置に移す事になった。 桐が言う事には、父はもう既に故人であるのだから関係はないだろう、という事だ。 それでいいのだろうか、とは思ったが、本人が言うのだからいいのかも知れない。 この庭は彼女のものだ。 彼女のしたい様にすればいい。 「そう言えば、椿の代償は何だったのです?」 「見られる事です」 「見られる?」 「椿の願いは、《みてもらう》事。私はその為に椿に人形を与え、延命させ、そして、場所を移した。彼女が咲く場所を提供したのです。ならば、彼女には咲いて頂かなくては。咲いて、私を楽しませる。それが彼女の代償です」 だから、見られる事、か。 彼女は、椿は枯れる事を許されない。少なくとも、桐がこの屋敷を去るか、世から存在ごと消えるかしない限りは、ずっと。 椿は《みてもらう》事を望んだのだ。 ならば、最期のその瞬間まで美しく咲き誇らなければならない。 それが与えられたものに対する、代償、代価。
/497ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加