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その翌日の事だ。
奥にあった椿を縁側から眺められる位置に移す事になった。
桐が言う事には、父はもう既に故人であるのだから関係はないだろう、という事だ。
それでいいのだろうか、とは思ったが、本人が言うのだからいいのかも知れない。
この庭は彼女のものだ。
彼女のしたい様にすればいい。
「そう言えば、椿の代償は何だったのです?」
「見られる事です」
「見られる?」
「椿の願いは、《みてもらう》事。私はその為に椿に人形を与え、延命させ、そして、場所を移した。彼女が咲く場所を提供したのです。ならば、彼女には咲いて頂かなくては。咲いて、私を楽しませる。それが彼女の代償です」
だから、見られる事、か。
彼女は、椿は枯れる事を許されない。少なくとも、桐がこの屋敷を去るか、世から存在ごと消えるかしない限りは、ずっと。
椿は《みてもらう》事を望んだのだ。
ならば、最期のその瞬間まで美しく咲き誇らなければならない。
それが与えられたものに対する、代償、代価。
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