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赤い花びらが舞った。
ふわりと香った淡い香りに虎吉はその先を見て、僅かに目を見張った。
黒い髪、白い肌、真っ赤な唇。
白地の着物には椿の花が描かれ、それはそれは美しい姿だった。
《ありがとう》
赤い唇が紡いだのは感謝の言葉。
柔らかく微笑んだ彼女が弾け、舞い、赤い花びらが散った。
これは夢なのだろうか。
確認したくても、この場には自分と桐しかいない。
何が本当で何が夢なのか、区別が付かなくなっていた。
しかし、夢でも構わないのではないかとも思う。
もし夢ならば、それはそれで面白い夢ではないか。
そう思ってしまえば、笑いしか込み上げて来なかった。
「…願わくは、貴女が幸せであります事を」
椿の花が揺れ、彼女が笑った様な気がした。
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