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高い塀の向こうから聞こえる子供の笑い声を耳に、桐は目を伏せた。
幼い頃からずっと、自分はこの塀越しに声を聞くだけで、自身が遊びに参加した記憶はない。
産まれてすぐに彼女は父親に人との関わりを絶たれていた。
残されていた関わりは兄弟と世話役の彼女とのものくらいで、後は殆どなかった。
その中でも、自分を自分として扱ってくれた人は限られる。
自分は孤独だったと言えば、少し自意識である様に思われるかも知れない。
しかし、幼い頃から“鬼子”と呼ばれて忌み嫌われて、一人の人間として見て貰えなかったのだ。
孤独だったと言っても構わないだろう。
外から聞こえて来る笑い声は憧れだった。
内側の世界しか知らない自分自身が嫌いで、外に飛び出したいといつも思っていた。
その自分を外に引っ張り出してくれた手。
あの手を自分は光だと思った。
光の中で微笑むあの人に憧れ以上の想いを抱いているとは、彼女自身もまだ気付いていない事だ。
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