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一応、死んだふりを続けている笹塚は目を開けることも出来ずに、音で周りの様子を探っていた。
風に揺れた草木の音や、何処かからか聞こえてくる何かの鳴き声に、体がびく付きそうになるが、必死に堪える。
そうこうしていると、
(……水の音?)
水の音が聞こえ、段々とそちらへと進んでいることがわかった。
水面からの冷たい風を感じる程に近くに来た所で熊は笹塚を降ろした。
(……なんだか、よく判らないけどチャンスだ……隙を見て逃げよう)
熊の、のっしりとした足音が遠ざかったのを聞き薄目を開く。
チラッと見れば熊は草むらに入っていく所だった。
(よし、今だ……ッ?!)
体を勢いよく起こして走り出そうとした時に熊が戻ってきたのだ。
(~~! クソッ折角のチャンスが……)
再び、死んだふりをする笹塚。
熊の足音はのしのしと近付き、近くにどっかりと座った様だった。
笹塚の心臓はバクバクと脈打ち、今にも破裂しそうだった。
その時、パシャりと水の音がした。
「ひゃあっ?!」
笹塚は思わず体を勢いよく起こした。その髪からは水が滴っている。
ギギギ、と音がしそうな程にぎこちなく首を曲げれば器用にも掌に水を溜めていた熊が居た。
(お、終わった……ウチの人生……)
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