陽気な吸血鬼

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世界には、数多の化け物が、昔話や伝承として残っている。    その中の一つであり、唯一"存在した"化け物、それが、"吸血鬼"。    彼らは人の生血を貪り、狼やコウモリを下僕として操り、夜の闇を目にもとまらぬ速さで駆け抜ける脚力と、あっという間に人をズタボロに引き裂く腕力を持った、夜の世界を統べるに相応しい正真正銘の化け物だった。  しかし、世界が発展していくにつれて、吸血鬼たちは衰退の一途を辿っていった。それは、人々の銃器による防衛や、科学力の発展、そして元より人の生血が無ければ本来の力を使うことが出来ないという、人任せな性質故である。次第に彼らは、人と交わり、吸血鬼としての種を減らしていった。  そんな同族に反抗するように、一匹の吸血鬼が数百年間生き続けた。だが、吸血鬼が生きることは血を吸うことであり、やがてこの吸血鬼も追い詰められ、ボロボロに打ちのめされ、死んだ。しかし彼は、生前一人の人間との間に子供を作っていた。数百年生きた吸血鬼の細胞と、そんな彼を受け入れた人間の心優しい細胞、その間に生まれた子供は、はたして、"人間"になれたのか"吸血鬼"となったのか……。  時は現代、場所は東京新宿繁華街。夜の闇とネオンの光が怪しく光る夜の世界で、一人の長い白髪をした青年が、街行く人々に紛れ、獲物を探すような鋭い眼光で、何かを持って立ち尽くしている。そして、黒々とした化粧に身を包んだ健康的な女性を見つけると、ニヤリと笑う。そのまま身長百八十センチはあるほっそりした体が、ゆらりと動くと、青年はすぐさま持っていた物を目の前の女性に突き出した。 「イケメン喫茶深夜の部、まもなく開店でーす!!」
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