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今まで、自分の気持ちを抑えるのが精一杯だったのだ。
私は、座っていた腰を持ち上げて立ち上がろうとすると、手足が悴み痺れていて動かすと少し痛みが走った。
「…あれ?」
『~ほらっ!』
陵の冷たい手が、力の感じられない私の腕を引き寄せて起こしてくれた。
『こんなに冷たくなって、凍傷にでもなったらどうするんだよ、お前…』
そう言って、ギュッと掴まれた陵の腕が、私の腕よりも冷たく感じた。
「…あなたもねっ。」
しゃべった唇の冷たさに少し寒気がした。
『…ほんと、強がりな奴…』
陵は、私を喫茶店まで引っ張って誘導してくれた。
『お前…力無さ過ぎっ、後、軽すぎ!しっかり何でも食べろよ!』
陵の言葉に反応する気力が私の中には、もう微塵も残っていなかった。
「お待たせしました。ホットコーヒーと、レモンティーでございますっ」
窓際に座る私と彼の元に、ピンク色のエプロンを着飾った、黒髪おさげのウエイトレスが飲み物を運んできてくれた。
先ほどの土手からはあまり近くに喫茶店がなかったので、学校の近くの静かな住宅街の喫茶店まで、陵が連れてきてくれたらしい。
私は、今、ウエイトレスの幼くあどけない声を聞くまで、自分がここに来ていることを忘れていた。
目の前のテーブルに置かれた、ティーポットとカップの脇にスライスされた輪切りのレモンが一切れあったことから、自分がレモンティーを頼んだのだと分かったくらいだ。
紅茶のカップを持とうと、伸ばした中指と人差し指が、温かさに触れてビリッと、一瞬電気が流れたかのように痺れて一口紅茶を飲むと、体中に温かさが充満していく。
反面、
温かい飲み物を飲んだら、少し自分の凍り付いていた想いが、一緒に温められて流れ出すかのように、押し込めた気持ちに対抗することが出来ない
「…あのさ、」
コーヒーを片手に持ちながら、陵は私を見つめた
止まらない─もう、止められない。
この喫茶店に来るまでの間も、ずっとずっと聞きたくて。
…聞けなくて。
諦めようとしたけれど、ヤッパリ気持ちを抑えることができない─。
なんで…。
…どうして。
そんな言葉が私の体中を駆け巡って私を狂わせていく。
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