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「なんで、…」
『えっ?』
「なんで、何で私に言ってくれなかったの?なんでっ、どうしてっ敦のこと…もっと、早くにっ」
『…』
陵は持ち上げたコーヒーカップを、カシャンッと静かに置いて眉毛を持ち上げて私を見つめた。
「~っ、陵が、陵が言ってくれたら、私は敦に逢えたかもしれないのに!私、逢いに行ったのに…絶対、這ってでも行ったのに。」
『…』
「私は、敦になにもしてあげられなかった。何も…本当に、なにもっ…。敦に逢いたい、逢いたい逢いたいっ、逢いたかったよ…会いたかっ…」
どうしても、
どうしても押し込めていた気持ちが止まらない。
何か、敦に逢えない事情があるのだろうと言うことは、ほんの少し、頭の片隅では分かっていることなのだけれど。
でも、…それでも。
一目でも、もし、ほんの少しだけでも、敦に逢えることが出来たとしたら。
そう考えたら、心が煮えくり返ろそうな程、彼を、陵を責めたい気持ちでいっぱいになってしまった。
自分は弱い。
相手の気持ちなんて考えてあげられるほど、大人ではない。
今の自分を保つのが、限界だった。
でも、そんな自分が一番悔しくて、情けない。
私は紅茶のカップを握り締めた。
『美海…』
「私は、幼過ぎて。自分の事ばかりで、本当に…敦の気持ちなんて何も…全然気付かなかった。私は、私は…自分の事だけで、敦は…敦は、ずっと支えてくれたのに。ずっとずっと…傍に居たのに、私は、何にもできなかっ…」
目の前にあった紅茶のカップを掴んだまま、うな垂れた。
言葉にできない悔しさと寂しさが胸を掻き立ててやまない。
自分の愚かさと情けなさに嫌気がさして、悔しくて悔しくて。
「…っ、御免なさいっ、ごめんなさっ」
私は何回も何回も謝った。
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