2.星の記憶

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「ゆっくり、呼吸だ。今、注射した薬は少し特別製で、急激な呼吸は身体を壊しかねない。五秒に一回ずつ呼吸するように意識しろ」  ドラキューラの指示で、若い軍人は五秒ごとに呼吸を繰り返した。その呼吸法は同時に、彼の精神状態を宥める為でもある。心身が不安定な状態では何が起こったのか、正しい話を聞くことができない。 「落ち着いてきたろう。私は、七ッ星の一人だ。銀河中央病院で院長をしている」 「銀河中央病院の・・・!」  意識の覚醒が不十分だった若い軍人だが、相手がドラキューラだと知るとキズが痛む身体を動かして敬礼する。 「ドラキューラ院長でありましたか。七番星の救出に出向いておきながら、逆に助けられるとは情けない所存であります」 「堅苦しい挨拶は抜きだ。何があった?生き残っている軍人はいないのか」 「い、生き残った・・・?」  ドラキューラの質問に若い軍人は少しの間、思考を止めた。何が起きたのか、頭の中を整理しているのだろう。やがて、何かを思いだしたように若い軍人は自分の怪我など無視してドラキューラに縋った。 「そうだ!パレス少佐が!」 「パレス?お前達の指揮官か?」 「いえ・・・。副指揮官です。彼が!」 「奴がどうした?」 「院長。どうやら、マズイ事態になっているみたいですよ」  若い軍人から話を聞いていたドラキューラにギャックが口を挟んできた。ギャックは小型の携帯端末を手にもっていた。 「今、コンピューターを起動させて調べてみたんだが、ここのいる死体の数と派遣された人数が合わないんだ」 「数が合わない?」 「恐らく、手遅れだ」  若い軍人は後悔するように言った。 「手遅れとはどういうことだ」 「この星に捜索にやってきた自分達は地質に他の星では類をみないステルス系の素材などを発見しました。この星が長年、発見されなかった理由の一つです。そこで、自分達はリュージー准将の指揮の下、中隊を捜索部隊と地質分析の二つに分けて行動していました。・・・今、思えば、パレス少佐はこの星のことを知っていたかもしれません。彼は積極的に七番星の捜索に加わろうと上層部に志願していましたから。調査を始めてから数日後、パレス少佐が自分達を射殺してきたのです」 「副指揮官が?」
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