2.星の記憶

10/22
前へ
/44ページ
次へ
 ドラキューラとギャックは出来ることなら、事態の収拾に着手したかった。だが、それを相手が易々と許すとは思ってもいない。 「やっぱり、パレス少佐が原因か?」 「そうとしか、考えられないだろう。おそらく、星の記憶に記録されていたこの星の欲望を具現化する物質、全てに彼の影響が現れたのだろう」  船内に若い軍人を一人残して、外に出た二人は光りの亀裂から姿を現した二体の怪物に目をやった。一体は亀のような姿をしていた。あくまで、亀のような姿だ。甲羅には大砲のような砲身が何本も生えていていた。明かに、あそこから砲撃をしてくると見え見えだった。 「〈怠惰(スウロ)〉・・・〈怠惰(スウロ〉・・・」  亀のような怪物はスウロという言葉を鳴き声のように連呼しながらギャックに向かってゆっくりと歩みよってきた。 「兎に対して亀とは、パレスって奴も洒落が聞いているな」 「ギャックの相手が亀ということは、私の相手は猫」  ドラキューラは相手を猫と称していたが、どちらかというと虎に近かった。ノンビリとしたスウロとは対照的に、猫は毛を逆立てドラキューラを目の前に興奮しているようだ。 「〈強欲(グリィィィド〉!」  名前がすでに鳴き声になっていた。 「強欲か・・・。単純で理解しやすい名前だな。これが、パレスの欲望の具現化なのか。先に言っておくが、強欲なら私の方が上だ」  ドラキューラはそこでやっと、今まで抑えこんでいた本性を明かにした。若い軍人の血を拭き取ったハンカチ。それにはまだ、タップリと生き血が染み込み乾ききっていなかった。ドラキューラはそれを口元に近付けると、その血を舐めた。 「人の身から生まれた強欲ごときが!我が輩に勝とうなど、数万年早いということを教えてやる!」  血を口にした瞬間、ドラキューラのそれまでの口調は一変し、荒々しくなる。変わったのは口調だけではない。風貌も大きく変化した。白髪だった髪の毛は若々しく黒く染まり、年老いた肌にも艶が戻る。犬歯が鋭く伸び、牙のようになる。  これが、ドラキューラの本来の姿だ。名前からも察しがついていると思われるが、彼は宇宙でも珍しい吸血種の星の出身なのだ。普段は、自分の吸血鬼としての血を抑えるワクチンを定期的に打っているが、一度、血を舐めれば、そのような小細工は通用しなくなる。本来の吸血鬼として覚醒する。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加