2.星の記憶

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 吸血鬼に覚醒している間の戦闘能力は普段とは比べものにならない。その代わり、医者として真っ当な治療はできなくなってしまうが。 「グリィィィ!」 「キイィィィ!」  互いに奇声を上げ、ぶつかり合うドラキューラとグリード。素早さ、パワーは共に互角だった。  そして、拮抗していたのはギャックも同じだった。相手は怠惰を形にしたような亀だが、それを補うように甲羅に生やしている砲身が厄介だった。ほとんど、動かずして火炎放射や砲弾を撃つスウロは差詰め、生きた装甲車も同じだ。対抗するようにギャックは攻撃を交わしては、パチンコ玉を弾きスウロに攻撃を与えていた。頑丈な甲羅を壊すに至らないが。 「ちょっと!誰よ!アンタ!」  戦いが繰り広げられているのは地上だけではなかった。人工的に掘られた地下でも繰り広げられようとしていた。食材を探して地下の鉱脈を辿っていた菓子職人、四番星(フォースター)、ポロは目の前に現れた二足歩行で歩くカバのような生き物に向かって言った。 「〈食欲(グラトニー)〉」  知性を持ち合わせない食欲だけが具現化したグラトニーは何を考えているのか、問答無用でポロに向かって突進してきた。その大口を開けて。寸前のところで、グラトニーの大口をポロは交わすも、そいつはそのまま、鉱脈に噛みつき、それを食べてしまった。 「あーもー。せいっかく、高濃度のカカオ石(ストーン)を見つけたのに」  グラトニーが噛みついたのは、丁度、ポロが発見した食材になるほろ苦い薫りと味が特徴のカカオ石だった。加工すれば、チョコレートやココアにもなる素晴らしい石だったというのに、グラトニーは一口で食べてしまった。 「どこの誰だか、知らないけど、これ以上、食料になる鉱脈を食べられたら大変よ。大人しくしてもらうわよ」  ポロは自分の身の安全より食材を喰われる方が耐えられなかった。手錠で繋げられたオールのようなヘラをグラトニーに突きつけ言う。 「それにしても、ここは菓子職人には良い場所よね。カカオ石の鉱脈だけじゃなくて、菓子作りには欠かせない食材の鉱石が沢山あるのだから」  ポロはヘラの先端を近くにあった半透明の鉱脈に突き刺す。ヘラの先には電熱線が仕込まれており、突き刺された半透明の鉱脈を溶かしヘラの先を補強し槍のようになる。
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