2.星の記憶

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 何度も。レバーを引きエンジンを噴かす。その都度、エンジンは低い唸り声を生き物のようにあげた。まるで、これから獲物を仕留めようとする獣のように。  エンジンの回転速度が最高値まで上がるとビックはそれを地面に突き刺した。地面は揺れ、ビックは掘削機と一緒になって地面へと潜った。直接、地面の中でエンヴィーを潰すつもりなのだ。 「あーあ。社長に火が点いちゃった」 「多分、工期が二日hじょど遅れるんじゃない」 「それでも、工期内に終わらせようとするのが社長だけどな」  作業員は呆れながらも、少しでも工期を間に合わせるべく直せる所から修繕工事に入った。  トコリコの手によって破壊され崩落した地面。どれだけ、地下へと落ちたというのか。トコリコ自身も考え無しに地面を壊したらしく土砂や岩の下敷きになっていた。本来なら、そこで、トコリコの命運は尽きてもおかしくなかった。だが、トコリコの首輪は彼の命を増幅し、ケガを治癒させ立ち上がらせた。 「ずいぶんと落ちてしまったな」  右手で土砂を振り払いながら身体を起こし、周囲を見渡したが、真っ暗でここがどこなのか分からない。上を見上げたところで、開けた穴は遙か上で、相当な深さまで落ちたのだと推測することはできた。 「さすがに、やりすぎたか?これじゃあ、あの流星とか言っていた男も、無事じゃないだろうな」  逃げる為だったとはいえ、天川を巻き込んでしまったことを悪いなとトコリコは内心、思っていた。あの崩落だ、天川が無事であるとは思えない。死にはしなくとも、大怪我で当分の間、動くことはできないだろう。 「心配する必要はない」 「!」  暗闇の中、声が響く。声を聞いた所は反射的に自分が今、立っていた場所から離れた。それというのも、声は天川であり、彼の気配を背後に感じたからだ。 「どこだ!」  トコリコが声を上げるも返事はない。ただ、元刑事、五番星(ファイブスター)、天川流星はこの暗闇の中、正確にトコリコがいる位置が分かっているらしく、攻撃の手を休めることはなかった。あの崩落で生き延びていただけでも、奇跡的であるが、トコリコを狙って動けるとはどういうことなのか。暗闇で視界を奪われているのは互いに同じ条件だというのに。
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