2.星の記憶

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 二人はそれぞれの立ち位置から逃れ、ラースの拳を交わす。 (先程から、星全体に妙な気配を感じていたが、コイツだけは何か変だ)  惑星Xで何が起こっているのか、情報が伝わっていない天川には分からないことだらけだが、ラースは明かに異質だった。まるで、元からあったモノに上書きされたような。  拳を外したラースは一切、喋ることなく態勢を立て直すと、二、三度、素振りを繰り返したかと思うと、即、攻撃に転じる。今度はもっとも、近いところにいた天川に狙いを定め。交互に繰り出される、左右のストレートを交わしながら、ラースの懐まで間合いを縮めると、真下から顎に向かってのアッパーを天川は喰らわせた。 「流星空手『天の架け橋』」  顎に拳を受けたラースは蹌踉(よろ)めくも、倒れることはなかった。顔が歪んでも踏みとどまり、懐に入ってきた天川にストレートを浴びせようとした。天川の方も負けじと、後転しつつ両手を地面に着き、ストレートを交わすと、彼を狙いやや前屈みになっていたラースの脳天に大振りの踵落としを入れた。 「『星輪』」  脳天に踵落としを受けたラースは地面に倒れる。ラースの頭を土台にして立ち上がり、その加重で彼を地面に押しつける。地面に顔を埋(うず)められても尚、ラースは呻き声を上げることはなかった。それどころか、まだ起き上がろうとしていた。 「なんて、頑丈な奴だ。顎下と脳天に打撃を与えたというのに、卒倒しないとは。こんな奴とトコリコを相手・・・ん?」  天川は盲目である。その分、修行で周囲の気配を感じられるようになっていた。数十メートルぐらいなら建物の構造や人物、物の配置を見分けることができる。普段の生活では、それぐらいで充分なのだ。  ところが、ラースとの戦いに気を取られている間にトコリコの気配を見失ってしまった。 「・・・・」  天川は理解した。というより、この状況で考えられるのは一つだ。トコリコはラースを天川に押しつけて、星の記憶に向かったのだと。 「ははははは!悪いな!流星よ!オレ様はお前のような奴とは戦いたくない!キズと体力を首輪の力で回復させてやっただけでも感謝しろよな!」  あの時、トコリコが天川を掴んだのは命の首輪で天川の命を増幅するのが目的だった。だから、トコリコと戦っていた直後だというのに、ラースと即、戦えた。
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