2.星の記憶

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 惑星Xにはかつて、人は住んでいた。もっとも、真っ当な人間ではない。元々、欲望を具現化できる物質が多く存在していたのも要因の一つだった。住民達は、この星の欲望を具現化する物質を使い、通常では存在しない物質や鉱脈を次々と生み出し、生活を向上させてきた。それは、欲望を具現化した世界、そのものだった。人々は欲しい時に欲しいモノを得て、好き勝手に怒っては、相手を羨ましがり、しゃぶり尽くし、その上、動くことすら怠けるようになった。誰もが王様気取りだ。全ては、欲望を具現化できる物質のおかげ、数が足りなくなれば地下を掘り、より物質を回収し続けた。このまま、放っておけば、星の命は潰えていただろう。  しかし、星は住民達の手によって潰えるのを待つことなく滅びた。果てしない欲望によって、お互いをつぶし合った訳でも、自然災害によって滅びた訳でもない。誰も想像すらしていない事が起こった。  そいつは、突然、現れた。天川が現在相手をしているラースと酷似した者が。いや、外観的に似てはいるが、そいつはラース以上の憤怒を抱えているかのようだった。 「腹が立つ連中だ。そんなに楽をしたいなら、何もしないで済むよう殺してやる」  ラースに似たそいつは一方的な殺戮を始めた。そいつに、対抗する手段などない。次々と堕落した連中を殴り殺した。中には周りで怒っている殺戮など一切、気にすることなくバカ騒ぎをしている連中もいた。無神経というか無関心というか。そのような連中は執拗に殴り殺されることになる。肉塊を通り越し、挽肉になるまで。  この世に痕跡を残すことなく。  神や悪魔。そいつは、そんな存在ではない。もっと恐ろしい何かだ。  逆さまの十字架が刻まれたナックルを血で染め上げる。  そして、もっとも異様なのは人々の死んでいく様であった。何が楽しいのか、殴り殺されていく人々の断末魔は全て、叫び声ではなく笑い声だった。  笑って死んでいく。それは、狂った世界だった。 『・・・元々、私の祖先はこの星で生まれた。幸いなことに殺されることを免れた他の星に落ち延びたが、二度とこの星に戻れることはなかった。元々、他人に発見されたくなった祖先が、電波妨害やステルス系の素材で星の全域を覆ってしまったからだ。この星が発見された。その報告を受けた時は喜んだ。なんとしても、星を、星の記憶を手に入れなくては』
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