1.惑星X失踪事件

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 小刻みな振動と共にトコリコは床へと押しつけられるような感覚に襲われた。いや、押しつけられているのではない。本来の重力に従い、身体が床に向かっているだけだった。何故なら、この乗り物は車や電車でなければ、飛行機でもない。宇宙船なのだ。船内にはある程度、無重力を軽減する装置が取り付けられていたが、それは客席ほど完璧ではなかった。少しばかり、重力が弱まりトコリコは身体が浮かんでいるような気がしていた。  そして、今、トコリコが偶然、乗り込んでしまった宇宙船は目的地である惑星Xへと着陸しようとしていた。 「惑星Xの大気は安定している。私達が乗り込んでも問題はなさそうだ」  宇宙船が無事、惑星Xの拓けた土地に着陸すると白髪の男は宇宙船に備え付けられている大気の成分を調べる装置を使い分析した結果を伝えた。そもそも、開拓しようとしている星だ。大きな問題があるとは思えなかったが、医者である彼は念のためと調べていた。 「ホンマに電波が悪いなぁ。通信できへんほどやないけど」  小型の無線機のダイヤルを弄っていたファースはイヤホンから聞こえる雑音に顰めっ面となり無線機を座席に置いた。持ち歩いたところで、まともな通信ができないと思ったからだ。また、通信範囲は地表であり洞窟や地下にでも潜ったら使えなくなってしまう。だったら、初めから持ち歩く必要などなかった。  白髪の男の操作で宇宙船のハッチが開かれると六人はそれぞれ、自分の愛用の道具などを持って降りた。瀧とサングラスの男は何も持っていなかったが、他の四人は、それぞれ変わったモノを持ってた。ファースは小型ラジオのような装置と野球のバット。ポロはオールのようなヘラ。よく見ると、ヘラと彼女は手錠のようなモノで繋がれていた。ギャックはジャラジャラと音がする小さな袋を腰のベルトに結わえ付けていた。最後の白髪の男に至っては、宇宙船に積み込んだ医療器具や薬品が愛用の道具であった。降りる前に貨物室の開閉扉を開き、宇宙船の後部から全自動で彼の器材が搬出された。 「あががあがあああ!」  結果、貨物室に潜んでいたトコリコは大量の器材と一緒に表に運ばれた。その際、バランスを崩し落下してきた器材に潰されかけた。 「ん?」  船外へと出ていたギャックはピクリと反応した。兎耳のおかげだろう。人より敏感に不審な物音に気付いて運び出された器材の方を向いた。
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