213人が本棚に入れています
本棚に追加
「痛いよ、アグネス」
「あっ、ごめんなさい。でも、大丈夫で安心しました。ん?……煤が…………」
アグネスはローブのポケットからハンカチを取り出すと、まるで幼児にそうするかのように、レニの頬についた汚れを拭き始めた。これはさすがに……っと思ったレニは慌ててその手を掴んでやめさせる。
「もうっ!サランの奴。明らかにレニに対してだけ厳しいですよ!レニができないことを判っていながらあんなことを……」
自分の為に頬を膨らませて怒ってくれているのは嬉しい。うん。だけど……軽く馬鹿にしてないかしら?
そりゃあ、薬学は一等苦手だ。
だからと言って、授業を聞かなくて良い理由にはならないし、悪いのは自分自身だ。薬を爆発させて、皆を眠らせたのは自分。
サランは正しいし公平だった。
「もし、仮にルシオラが僕にだけ厳しかったとしたら。今頃、僕はクラス中の笑い物。エルヴィエラは無罪放免で彼の――ルシオラの研究室には呼び出されていないだろうね」
「でも…………」
鍋の中に僅かに気化せず残った液体を拭き取りながら笑む。否、『萎びた翁の鼻(仮)』の威力が思いの外すごかったことにではなく、アグネスの沈んだ顔が可愛かったから。
どうしてこんな僕に構って、心配までしてくれるのだか。
地味で暗くて間抜けで……皆に言わせりゃ気味の悪い奇人(フリーク)。おまけに魔力も制御できていない落ちこぼれ。教師達ですら首を傾げて遠巻きにしてくる始末。どうしてこんなのが魔導特別専攻科クラスに所属できているかが謎なんだろう。僕にだって謎なんだから仕方がない。
最初のコメントを投稿しよう!