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こんなもの、望んで得た力ではない。
強くなりたいだなんて誰が言った。
ただ、普通でありたかったのに。
「どうして……そんな当たり前のことを…………
許してくれないんだ?」
呟きは風にかき消される。
ワインレッドの瞳から涙が溢れてこぼれた。それは止めどなく、頬を流れた。顎を伝いぽたぽたと膝の上に滴り落ちる。
震える肩を抱いてくれる者は誰もいない。
「炎帝。いえ…………レオン……もう、終わったのよ。帰りましょう」
そう言いながら近づく女が一人。深紅のローブに身を包み、顔をフードで隠している。
女は男――レオンの少し手前で足を止めた。彼女は仲間であったが、けっして彼にそれ以上は近づきはしない。いつも、手前まできてやめるのだ。
魔力を奪われないように。
魔導師と呼ばれる者の中でも特に力のある彼女でさえ、近づきすぎれば魔力を彼に吸い取られてしまう。彼は自分の意志に反して周りから魔力を奪い取ってしまうのだ。故に、体内に保有する魔力量の少ない人間は、彼が触れただけでもすぐに死んでしまう。
その力を畏れ、誰も近づかない。
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